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読書録 よしもとばななの「スナックちどり」。とてもよかった。

よしもとばななさんの「スナックちどり 」を読みました。

 

スナックちどり (文春文庫)

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大切な人を失って、ものすごく苦しくて淋しい日々を、冷静に慎重にどうにか乗り越えてゆく。その過程を素晴らしく描く。

よしもとばななさんはそんなイメージの作家さんです。「キッチン」しかり、「デッドエンドの思い出 」しかり、この「スナックちどり」しかり。

 

以下、私なりの「スナックちどり」の感想です。 

10年連れ添った夫との離婚を決め、どうにかなってしまいそうに苦しい主人公のさっちゃん。でも、その苦しみの一方で、どこかひどく冷静な気持ちを持ち合わせている。あの人との生活をやめることにした理由も、とてもよくわかっている。大好きだった彼のほんの1割くらいの部分。その1割がどうしても気になって、ついには愛でることができなくなった。

でも、頭ではすべて納得している一方で、「あの日に戻れないなら、もう私の人生にはなんにもない」なんて気持ちもしょっちゅうこみ上げてくる。

 

そんなさっちゃんと、自分を育ててくれた祖父母を失った従姉妹のちどりが、ふたりでイギリスの端っこへの旅に出る。共に毎日を過ごしながら、自分の悲しみや憤りを、そして自分の大切なものを、少しずつ自分で解剖していく。ひとつずつ思い出しては、時にはそっと打ち明けあって、たしかめ合う。ああ、自分はこんなふうに生きてきたんだった。そういえば、ちどりはこんなふうに生きてきたんだな。本作は、自分自身のこころを冷静に解剖しながら、とんでもない苦しみに穏やかに立ち向かう、そんな過程を描いた物語だと思う。

 

とても卑屈になったり、相手のせいにしたり、もう死んでやる!というのは楽ちんだ。なにも考えなくて済む。
でも事実はやっぱり違う。さっちゃんは、元の旦那さんと、お互い本当に好きで、共に暮らしたいと心底思って、だから一緒に暮らして、そしてどうしてもだめだった。それが事実だ。自分が存在意義のない人間だとか、結婚不適合者だとか、思い込んだほうが楽かもしれないけれど、そんなことは無いと、ちゃんと知っている。お互いが好きで、別に二人を引き裂く環境も設定もなくて、それでもこの人とは一緒に暮らせないと自分で判断をした。それは、ロミオとジュリエットの引き裂かれ方なんかよりも、ずっと苦しいことだと、私は思う。でも、受け止めて生きていかなければならない。

 

ふと思い出す「キッチン 」のえり子さんのセリフ。

「まあね、でも人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこなのかをわかんないと、本当に楽しいことがなにかわかんないうちに大っきくなっちゃうと思うの。あたしは、よかったわ。」

 

デッドエンドの思い出 」を読んだときもそうでしたが、キッチンの文庫版あとがき「そののちのこと」に書いてあったことを思い出します。彼女のしたかったこと、したいこと。

よしもとばななは、30年経ってもブレない。かっこいいなぁと思います。

 

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