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読書録 山田詠美の「A2Z」

人と人との関係というのは、ひとつひとつが独特で、異なっていて、だから楽しかったり、時に悲しかったりする。

そんな当然のことを、誰しもが時には忘れ、「恋人」「友達」「親子」といった片手で数えられる程度の言葉で、まるで関係の内面まで描けるように錯覚することがある。

 

山田詠美さんの「A2Z」は、そんな私たちに警鐘を鳴らしてくれる小説ともいえる。

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子供のいない35歳の夫婦が、それぞれに恋人を作って、それを打ち明ける。そんな設定は、なんだか気をてらった小説のように聞こえるけれども、これは純粋なラブストーリーだ。

夫は、自分の不倫によって傷ついている妻の頭を撫でて、「俺がいるじゃないか」と本気で心配する。

なんだそれ、バカじゃないのか、という人もたくさんいると思うけれど、「恋人」とか「夫婦」とかいう言葉からは全く語りつくせない、自分たちだけのどうしようもなく温かい関係がそこにある。

その温かい関係がどれだけかけがえのないものか。自分たちがよくわかっている。ただ、たまに間違えることもあるのだけれど。

 

大学生の頃この本を手にとってから気に入ってしまって、今でも時折読んでいる。

恋人や夫婦だけではない、親子や友人、そういう単語で表せないような関係の人でも、やっぱり人と人との関係はオリジナルだ。相手に対してどう振舞おうと思いを巡らせながら、その人との関係を温めて行くのは、異性でも同性でもしあわせなことで、人生の醍醐味の一つだと思う。もちろんそこに、社会的な「友人」や「夫婦」の規範なんてものは出てこない。

そんな醍醐味を味わい尽くしている二人のストーリー。本作は、そんな小説だと思う。

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