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読書録:末井昭さんのエッセイ「自殺」を読んで、日々を綴るということを考える

末井昭さんの「自殺」というエッセイを読みました。

第30回講談社エッセイ賞を受賞しているそうです。

自殺

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率直なタイトルからはとっても重い印象を受けますが、まえがきには、「笑える自殺の本にしよう」との言葉があります。それは、軽く扱うという意味ではなく、「もっと自殺を身近に感じて欲しい」という気持ちから生まれた一言のように思います。

 

自殺は身近なものなのか

著者の末井昭さんは、小学生の頃、お母さんを隣家の青年との心中で亡くしているそうです。ただ、この18章からなるエッセイは、お母さんのことをたくさん綴っているものではありません。東日本大震災だったり、いじめだったり、病気だったりのテーマを設定して、そのテーマと自殺について、自由に語られています。

読み進めていく中で実感したのは、どんなテーマでも自殺というものと何かしらの結びつきがあるということ。交通事故の3倍もの犠牲者を出しており、電車でよく人身事故がアナウンスされ、大体の学校にいじめがある(と思う)…という時点で、確かにそれは、自分たちのすぐ近くにあるんだなと思います。

 

「日々を綴る」ということを体現している本

本書を読んでいて思ったのは、正直なところ自殺に関することではなく、「毎日の自分の気持ちを綴るということは、思っている以上に自分を助けてくれるのかもしれない」ということでした。

それをよく表しているのが、後半に差し掛かったころにある「うつと自殺」という章です。どういうことが書かれている章かというと、著者の末井さんが29年間連れ添った奥さんと喧嘩して別れ、現在の奥さんである美子ちゃんと一緒に住み始めた話です。その中で、他にも付き合っている女性がいたことや、その人から電話がかかってきて電話線を引きちぎったこと、パチンコやカジノに逃げ込んでいたことなどが、当時うつ状態で何も手につかなかった気持ちと一緒に語られています。

(「なんだよリア充かよ!」と思った方がいるかもしれませんが、奥さんも次の奥さんも別の彼女もいても、うつになって死にたいと思う人も世の中にいるわけで、苦しみや悲しみは比べられるものではないので、 自分の方が不幸だよと思うのは諦めてください。)

 

そんな中で末井さんは、休日になるとノートに綴っていた反省文のようなものを、自分が編集者をしている会社のWEBページに少しずつしたためることにします。すると、人からたまに「読んでいるよ」と言われたり、「面白いよ」と言われたり。そのうちに、赤裸々に書くほど、面白がってもらえることもわかりました。

そうしてブラックホールから徐々に抜け出した末井さんは、「日記を書く、それも人に読んでもらう日記を書くということは、自分を客観的に見る訓練になります」といいます。「自殺まで考えている人は書くことがいっぱいあるはず。どんなにつらい状況であっても、それを笑えるようになれば、うんと楽になるはず」と。

日々を綴るということを自ら体現しながら、一緒にやってみようよ、とすすめる感じは、上から目線なところが全然漂わず、末井さんの優しさがこころに沁みていきます。日々を綴るということで自分とも他者とも関わっていく。大好きな章です。

 

自分を客観的に見る「訓練」

ちなみに余談ですが、私は個人的に、「訓練」というワードが好きです。それもあって、先ほどの文章「日記を書く、それも人に読んでもらう日記を書くということは、自分を客観的に見る訓練になります」を抜粋しました。

ものの考え方とか、人への接し方とか、そういうのは日々の訓練がものを言う、と思っています。例えば嫌な人がいたらさっと避ける訓練、嫌味を言われても言い返さずに相手を憐れむ訓練…。ちまたでは「習慣」という言葉で表されることも多いのですが、習慣だと、そこに無意識にあるもののように聞こえます。そうではなく、意思を持って「訓練」をしないと、冷静に穏やかに生きていくのは難しい、と思うのです。別に筋トレみたいにハードなやつではなく、少しずつ、そういう局面に出会ったら思い出して自分に言い聞かせる、くらいの感じでいいので。

 

平成(昭和?)の太宰治と呼びたい 

さて、タイトルからするととても不謹慎な感じですが、最終的な感想としては、「人間失格の「私」がここにいた!」という感じです。

太宰ファンに怒られると思いますし、ちゃんと自分のことを明るく綴って笑う、という術を持っている時点で「私」とは違うのですが、そのプレイボーイっぷりと鬱々とした感じに、いやいや太宰かよ、と突っ込まざるをえなかったのは私だけではないはずです。

 

とはいえ、実際に両親が自殺してしまった娘さんへのインタビューの章や、自殺に関する統計数値が出てくる章もあるので、けしてただ明るい本ではありません。むしろ、「明るく考えようとする本」だと思っていただければと思います。

 

 

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