働いたり、妊娠したり、出産したり。

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ヤンヨンヒ監督とお兄さん、そしてご両親の物語「かぞくのくに」

WOWOWの無料放送にて、映画監督ヤン・ヨンヒ梁英姫)さんのドキュメンタリー「ノンフィクションW 映画で国境を超える日 映像作家・ヤン ヨンヒという生き方」が放送されたそうです。

見逃してしまい、大きなショックを受けております…。


ヤン ヨンヒさんは、映画「かぞくのくに 」の監督。

これまで一番印象に残った映画は何ですか?と聞かれたら、私はこの「かぞくのくに」を挙げるくらい、自分にとって大切な作品です。

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せっかくなので、ヤンヨンヒ監督の作品について、ここで思いをぶつけたいと思います。


北朝鮮国籍を持つ在日コリアン家族の毎日 

「かぞくのくに」は、日本で生活を送る在日コリアンの家族を描いています。

ごく平和な毎日を過ごしている、北朝鮮国籍の父親、母親、主人公(長女)の3人。

そこに、小学生の時に北朝鮮に渡った主人公のお兄さん(長男)が、病気の療養のため、3ヶ月というタイムリミットで日本に帰ってきます。

家族や友人がやさしく出迎え、楽しく笑って過ごす毎日。

その一方で、長男には、常に同行の見張り役がついており、北朝鮮での生活について多くは語らず、時には静かな沈黙が流れます。

そうして、短い期限が付いた日本での滞在を、家族4人は毎日思い思いに過ごし、再びの別れを迎えるまでの姿が映し出されます。

 

題材は、ヤンヨンヒ監督自身の経験

この「かぞくのくに」は、ヤンヨンヒ監督が実際に経験した家族のストーリーをモデルにしている、まるで自伝のような物語です。

実際に、監督のご両親は、北朝鮮の国家に忠誠を誓い、1950年代〜1970年代まで続いていた「北朝鮮帰還事業」に積極的に関わり、多くの在日コリアン北朝鮮へ送り出しています。

そして、その事業で自らの3人の息子(映画では一人の設定)も北朝鮮へ渡っているのです。

実際に、ドキュメンタリー映画を制作し、両親へのインタビューや、ピョンヤンを訪れた際の兄やその娘とのやり取りを作品にして発表しています。

どちらも、監督が北朝鮮を訪れた際の映像がたくさん使われているのですが、ニュースで見るのとは違う「普通の家族」がそこに映っています。

ディア・ピョンヤン」は、北朝鮮を「祖国」として尽くし続けた監督の父親を追い、「本当にそれでよかったのか」という無言の問いを、監督が父親に投げつづけます。

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そして「愛しきソナ」は、北朝鮮に渡って結婚した兄の娘「ソナ」を、北朝鮮に渡った際に映しつづけたドキュメンタリーです。

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笑いにあふれるごく普通の家族の、悲しい物語

在日コリアン北朝鮮というと、「パッチギ!」や「GO」を見たことがある方が多いかもしれません。

感情の動きを激しい表現で映し出し、叫んだり涙したり…。

それに比べて、ヤンヨンヒ監督の「かぞくのくに」は、とても静かでゆったりとした作品です。

交わされる他愛もない会話、食事中の些細なやり取り、街を歩く時に見える景色。

家族に対して簡単に言えることと、我慢して言えないこと、言いたくないのに言ってしまうこと。

その中ににじむ感情が、とても静かに、だからこそ強烈に、画面に映し出されます。

これは「在日コリアンの現実」を伝える映画というよりも、普通の家族が容赦ない現実に押し流されながらも、その「日常」を送っている映画だと思います。

何故か、北朝鮮に渡った兄だけが、望むように生きられない。

けれど、それは「悲劇」や「苦境」ではなく、とても理不尽で悲しい「日常」

彼らにとっては、絶えることのない毎日。

自分の人生を生きること、他人の人生を生きられないこと。

その厳しさと容赦なさを、静かに見せる、素晴らしい作品です。

劇場で見ていただきたい!!のですが、今のところリバイバルしている名画座も無さそうなのが残念…。 

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同じタイトルの書籍「兄 かぞくのくに」も発行されていますが、こちらは「かぞくのくに」小説版ではなく、モデルとなった実際の3人のお兄さんや、両親、監督自身についてのノンフィクションです。

こちらも、北朝鮮云々ではなく、「普通の家族」の日常として、ぜひ手に取ってみてください。

北朝鮮の生活を知りたいなら「かぞくのくに」書籍版を。

 

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