働いたり、妊娠したり、出産したり。

フルタイムでも共働きでも、ゆるゆるとマイペースに暮らしたい。

読書録 北朝鮮の生活を知りたいなら「かぞくのくに」書籍版を。

先日より何度か触れている、ヤンヨンヒ監督の映画「かぞくのくに 」。

書籍「兄 かぞくのくに 」もとても面白かったので、今日はこちらをご紹介したいと思います。 

 

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映画とは別物。三人の兄、そして両親を語る 

タイトルに「かぞくのくに」とあるので、映画の小説版かと思ったのですが、まったくの別物。

日本で暮らす映画監督のヤンヨンヒ監督ご自身とご両親、北朝鮮で暮らす3人のお兄さんについて、実際にどのような環境で生きてきたのかが語られている一冊です。

映画を見て、実際にどのようなことがあったのか知りたい、と思っていた私にはぴったりでした。もっと早く読めば良かった…。

 

実際に北朝鮮に渡ったお兄さんは三人。

映画ではお兄さんと妹の二人兄妹という設定でしたが、

ヤンヨンヒ監督ご自身には、三人のお兄さんがいるそうです。

お父さんの強い意志や予期せぬ事情もあり、三人とも十代の内に北朝鮮へ「帰国」。 

結局、末の妹だけが、日本に残ったのです。

 

三人が「帰国」することになった時の話は、何ともやるせない思いで苦しくなります。

当時は北朝鮮が「地上の楽園」と言われていた時代。そして、韓国と北朝鮮はすぐに統一されると思われていた時代。そんな先の未来が見えない中で、将来を決断しないといけない。

当然ながら、私はそんな状況におかれたことはありません。

本書を読んで、世界にはきっとたくさん、このような状況におかれている人々がいるんだと思い知らされました。

  

平壌の訪問や、お兄さんの子供の話。

映画では出てきませんでしたが、ヤンヨンヒ監督は何度か平壌を訪問し、お兄さんたちに再会しています。

お母さんは、日本から十箱以上のダンボールで差し入れを持ち込み、 お兄さんたち、お嫁さんや子供たち、親戚に配ります。

北朝鮮で暮らす彼らにとって、それらの差し入れはものすごく大切なものであることが、詳細に描かれています。

そして、何よりも興味深いのが、実際にその土地で暮らしている人たちの普段の生活の様子が紹介されていること。

歌を歌ったり、冗談を言い合ったり、美味しいものを食べたり。

ものすごく悲惨な話や、ものすごく作りこまれた話ではなく、彼らのごくごく日常を垣間見ることが出来ます。 

(ひどく悲しい話もいくつか出てきますが)

 

「かぞくのくに」のモデル。三番目のお兄さんの話。

三人のお兄さんの内、三番目のお兄さんが「かぞくのくに」のモデルのようです。

というのも、実際にお兄さんは、映画の中のソンホと同じく、病気の治療のために期間限定で帰国しているのです。

頬の奥にある腫瘍を治療するために帰国し、その間に、昔の友人やガールフレンドと話したり、病院に行ったり、家族で食卓を囲んだりします。

映画と異なる部分もありますが、実際のお兄さんも、平壌でのことは語らず、感情もあまり見せず、急な予定変更で、北朝鮮に帰国していきます。

読み終わってみると、映画でのソンホのほうが、ほんの少しですが、意志や感情を表現していたかもしれません。

もしかしたら、ヤンヨンヒ監督が、お兄さんがこう言ってくれたら楽だったのに、こうしてくれたらよかったのに、ということを、少しだけ映画に投影したのかもしれない。と、勝手に思ってしまいました。

  

北朝鮮での「普通の人たちの生活」を知りたい人のための一冊。

映画の雰囲気、余韻が好きな人はもちろん、映画を見ていない人でも、北朝鮮の暮らしに興味がある人にはとても貴重な一冊です。

権力者の周辺や、政治犯の収容所の話ではなく、平壌における普通の人たちの生活をここまで忠実に書いている本は、なかなかないのではと思います。

北朝鮮への「帰国」を推し進めた父親と、実際に帰国をして日々を送る兄たちの苦しみ、その家族を支える母親の強さと脆さ。 

朗らかで仲良しな家族が辿った、綱渡りのような日常。 

それは、北朝鮮平壌といった遠い場所の話ですが、私たちと同じひとつの家族のストーリーだと思い知らされます。

 

改めて、自分の人生を自分で扱えることの喜びを、感じずにはいられません。

是非おすすめです。 

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ちなみにこんな本もあります。

北朝鮮で兄(オッパ)は死んだ

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*当ブログの目次はこちらです*

出張中のホテルや食事の記録、読書録、映画のレビュー、作ってみたレシピなどなど。

麻辣湯レシピ。自宅でなんとか作ってみる。

私の大好きな麻辣湯!!

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渋谷と赤坂にある麻辣湯のお店。

白湯と、独自の辛いスパイスが効いたスープが独特で、その中に歯ごたえ抜群の太い春雨と、自分で選んだ具材が入っています。(私はキクラゲとパクチーがお気に入り!)

 

しかし、最近藤沢に引っ越して、渋谷も赤坂も遠くなってしまい…。周りで探してみるものの、横浜で唯一見つけた麻辣湯のお店や、ホームページで見つけた地方からのお取り寄せ麻辣湯も、なんだか違う感じ…。独特の「麻辣」の味が効いていない。

10年前から通っている麻辣湯中毒としては耐えられない!!でもわざわざ渋谷まで行けない!!ということで、手作りに挑戦したのでした。

 

とはいえ、自分でスパイスを買って調合…はさすがに難しい。

いろいろ検索して、割と「火鍋」の味に似ているのではないか、、という思いから、まずは、こちらで試してみることとしました。

 

じゃん。

KALDIの「火鍋の素」!!

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今回の一番のポイントは、この火鍋の素。

火鍋の素はいろんなメーカーのものがありますが、たくさん探して、白湯のスープと、辛い麻辣スープが混ざっている、この火鍋の素を発見したのです!!

実はKALDIで300円ちょっと。夏は全ての店で陳列されているわけではなく、4店舗くらい回ってやっと発見しました。

 

 白湯豚骨スープ・鶏がらスープ・平打ちはるさめ!

そして火鍋の素をサポートし、麻辣湯に少しでも近づくため、他にも重要を厳選しました。

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どーん!

まず、白湯豚骨スープと鶏がらスープが非常に重要。

火鍋だと辛すぎて、スープが飲める状態ではないので、この豚骨と鶏がらのスープで薄めます。ユウキ食品の粗い粉末シリーズ、普段使いできるのでお気に入り。

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 火鍋の素、お水、白湯豚骨スープ、鶏ガラスープを入れて火をかけます。

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 わくわく。

そして、平打ちはるさめ、きくらげ、シーフードを投入!

3-4分待ってから、お麩と揚げ玉を入れて完成です。

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じゃん!

さっそくいただきます。

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これが。

思っていた以上に。麻辣湯の味…!! 

 

自分でもびっくりしたのですが、想像以上に再現できておりました。

というのも、

KALDIの火鍋の素がとても優秀だったこと

・白湯豚骨スープと鶏ガラスープを両方入れたこと

が良かったと思われます。

普通の火鍋の素だと、独特の「麻辣」のスパイスが効いていないことも多く、なかなか市販で見当たらないので、本当にKALDIに感謝です。

ぜひ、麻辣湯ファンの方がこのブログを見ることがあるのであれば、試していただきたいと強く願います。 

 

 

 

鳥貴族の「ふんわり山芋の鉄板焼」をつくってみた[長芋のレシピ@アヒージョ鍋]

先日、初めて鳥貴族に行きました。

焼鳥以上に美味しかったのが、「ふんわり山芋の鉄板焼」

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(公式ホームページより)

これが一番美味しかった…!

周りのお客さんも「とろろ焼!」とよく頼んでいました。

すりおろした山芋に、出汁がよく染みていて、たまごと海苔をかきまぜておこげと一緒に食べる…。ナイスアイデアです。

 

家で作ってみました(長芋バージョン)

最近ちょうど長芋にはまっていたので、このとろろ焼きを長芋にて再現してみました。

これがなかなかうまくいったのです。 


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長芋をよく洗って、皮ごとカット。レンジでチンできる器に入れます。 


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愛用のハンドブレンダーでどろどろ状にします。30秒ほどで十分。

底の方に、いくつか固形のまま残っていましたが、それもまた歯ごたえのアクセントになって美味しかったです。

(2017年5月14日追記:「ハンドブレンダーがない」「長いもの皮むきが面倒」という方に向けて、このページの最後に裏ワザを追記しました!)

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どろどろ状になったら、ほんだしを一袋かけて、レンジで加熱。私は「ゆで根菜モード」の弱めでチンしましたが、モードが無ければ600Wで5-6分でいいと思います。 

加熱が終わってレンジを開けると、長芋のいい匂いが…。食欲をそそります。

 

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 レンジでチンしたものを、今度はアヒージョ鍋に。(最近多用している、直火もレンジもOKのアヒージョ鍋です!)

私は後で卵黄を上に乗っけたので、余ってしまう卵白をこの時点で混ぜ込みます。


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 火にかけて放置。わくわく。ちょっとおこげが出てきたあたりで火を止めます。

 

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 じゃん!火からおろして、卵黄を乗っけて、海苔を乗っけて完成です。

 

何皿でも食べてしまいそうな中毒性を感じます

長芋のコクのある味と、卵や海苔、ほんだしの味が相まって、あっという間に一皿をひとりで食べきってしまいました。

ポイントは、海苔をたくさんかけること、おこげを作ることでしょうか。卵黄はなくてもいい気がします。

 

翌日はたらこ風味に。パスタソースでアレンジ

長芋が余ったので、翌日はたらこ風味にしてみました。

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家にあったパスタソースを混ぜて、たらこ味に。これも美味しかった…!

しかし、たらこバターのバターは無くてよかったように思います。明太子とかが良いかも。

 

しばらくは量産してしまいそうな予感。いいおかずになります。

そして地味に役立ったのがアヒージョ鍋。直火にもレンジにもかけられるので、アヒージョはもちろん、一人分の雑炊やお鍋、炒め物に重宝していたのですが、またひとつ用途が増えて嬉しいです。

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長いもの皮むき&ブレンダーにかけるのが面倒な場合の裏ワザ(追記)

最近、ついつい長いもの皮むきが面倒になってしまい…。

なんと、すでに食べられる状態になっている、「冷凍国産とろろ」を、大量にゲットしました。

小分けですぐ解凍してそのまま食べられるので、鉄板焼きはもちろん、普通にとろろとして食べるのもおすすめです…!!

朝食や、ちょっとおかずの足りない夕食に重宝していまして、20袋あっという間に消費してしまいました。

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感想(16件)

 

ヤンヨンヒ監督とお兄さん、そしてご両親の物語「かぞくのくに」

WOWOWの無料放送にて、映画監督ヤン・ヨンヒ梁英姫)さんのドキュメンタリー「ノンフィクションW 映画で国境を超える日 映像作家・ヤン ヨンヒという生き方」が放送されたそうです。

見逃してしまい、大きなショックを受けております…。


ヤン ヨンヒさんは、映画「かぞくのくに 」の監督。

これまで一番印象に残った映画は何ですか?と聞かれたら、私はこの「かぞくのくに」を挙げるくらい、自分にとって大切な作品です。

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せっかくなので、ヤンヨンヒ監督の作品について、ここで思いをぶつけたいと思います。


北朝鮮国籍を持つ在日コリアン家族の毎日 

「かぞくのくに」は、日本で生活を送る在日コリアンの家族を描いています。

ごく平和な毎日を過ごしている、北朝鮮国籍の父親、母親、主人公(長女)の3人。

そこに、小学生の時に北朝鮮に渡った主人公のお兄さん(長男)が、病気の療養のため、3ヶ月というタイムリミットで日本に帰ってきます。

家族や友人がやさしく出迎え、楽しく笑って過ごす毎日。

その一方で、長男には、常に同行の見張り役がついており、北朝鮮での生活について多くは語らず、時には静かな沈黙が流れます。

そうして、短い期限が付いた日本での滞在を、家族4人は毎日思い思いに過ごし、再びの別れを迎えるまでの姿が映し出されます。

 

題材は、ヤンヨンヒ監督自身の経験

この「かぞくのくに」は、ヤンヨンヒ監督が実際に経験した家族のストーリーをモデルにしている、まるで自伝のような物語です。

実際に、監督のご両親は、北朝鮮の国家に忠誠を誓い、1950年代〜1970年代まで続いていた「北朝鮮帰還事業」に積極的に関わり、多くの在日コリアン北朝鮮へ送り出しています。

そして、その事業で自らの3人の息子(映画では一人の設定)も北朝鮮へ渡っているのです。

実際に、ドキュメンタリー映画を制作し、両親へのインタビューや、ピョンヤンを訪れた際の兄やその娘とのやり取りを作品にして発表しています。

どちらも、監督が北朝鮮を訪れた際の映像がたくさん使われているのですが、ニュースで見るのとは違う「普通の家族」がそこに映っています。

ディア・ピョンヤン」は、北朝鮮を「祖国」として尽くし続けた監督の父親を追い、「本当にそれでよかったのか」という無言の問いを、監督が父親に投げつづけます。

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そして「愛しきソナ」は、北朝鮮に渡って結婚した兄の娘「ソナ」を、北朝鮮に渡った際に映しつづけたドキュメンタリーです。

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笑いにあふれるごく普通の家族の、悲しい物語

在日コリアン北朝鮮というと、「パッチギ!」や「GO」を見たことがある方が多いかもしれません。

感情の動きを激しい表現で映し出し、叫んだり涙したり…。

それに比べて、ヤンヨンヒ監督の「かぞくのくに」は、とても静かでゆったりとした作品です。

交わされる他愛もない会話、食事中の些細なやり取り、街を歩く時に見える景色。

家族に対して簡単に言えることと、我慢して言えないこと、言いたくないのに言ってしまうこと。

その中ににじむ感情が、とても静かに、だからこそ強烈に、画面に映し出されます。

これは「在日コリアンの現実」を伝える映画というよりも、普通の家族が容赦ない現実に押し流されながらも、その「日常」を送っている映画だと思います。

何故か、北朝鮮に渡った兄だけが、望むように生きられない。

けれど、それは「悲劇」や「苦境」ではなく、とても理不尽で悲しい「日常」

彼らにとっては、絶えることのない毎日。

自分の人生を生きること、他人の人生を生きられないこと。

その厳しさと容赦なさを、静かに見せる、素晴らしい作品です。

劇場で見ていただきたい!!のですが、今のところリバイバルしている名画座も無さそうなのが残念…。 

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同じタイトルの書籍「兄 かぞくのくに」も発行されていますが、こちらは「かぞくのくに」小説版ではなく、モデルとなった実際の3人のお兄さんや、両親、監督自身についてのノンフィクションです。

こちらも、北朝鮮云々ではなく、「普通の家族」の日常として、ぜひ手に取ってみてください。

北朝鮮の生活を知りたいなら「かぞくのくに」書籍版を。

 

<この記事を読んでいる方におすすめ>

加藤陽子さんの「それでも、日本人は戦争を選んだ」。日本の近現代史を学びたい人におすすめ。

終戦記念日、夏休みに。中学生におすすめしたい戦争の文庫本3選。

中国現代史の「全体像」と「雰囲気」をつかむ。初心者におすすめの入門書とは。

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本日のレビュー:山口敬之さんの「総理」

 

読書録:「愛と欲望の雑談」(雨宮まみ 岸政彦)

最近はまっている岸政彦さんと、ライターの雨宮まみさんの対談本。

愛と欲望の雑談 (コーヒーと一冊)

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「コーヒーと一冊」というシリーズ名がついている、ミシマ社発行の手軽に読める薄いペーパーバッグにて発行されています。

 

まずは、とにかく、とても読みやすい。

対談なので言葉も平易でテンポよく進むし、題材も恋愛や家族や不倫など身近(?)なものなので、まるで居酒屋でお会話に参加しているような気持ちで読み進めることができます。岸さんと雨宮さんが、軽快な口調で自らの生い立ちや近頃ふと思ったことを披露しあい、突っ込みを入れて笑ったりして、読んでいるこちらは、気がついたら時間が経っていた、という感覚で読み終わってしまいました。

岸さんの「街の人生」を読んだあとということもあり、インタビューより対談のほうが圧倒的に読みやすい!!ということに気がつきました。(「街の人生」はインタビュー集です。感想はこちら

 

ただ、軽快で言葉が簡単で読みやすくても、恋愛や家族や不倫という事柄はそもそも軽快なものではないと私は思っているので、その話している内容は奥行きがあって、ふと考え込んでしまう場面もあります。

 

例えば、「しんどい競争と個人のしんどさ」「「持っている」ことをバカにする」というタイトルのおはなし。

岸さんが、自分は結婚して子供ができなくて苦しんだこと、そのしんどさを勇気を振り絞って生徒に語る。でも、「嫁自慢乙」という一言だけを残す生徒もいる(おそらくその人は本気でそう思っている)。

雨宮さんは、自分がどうにか生き抜いてきた過程をせきららに言葉にする。その中に、「そこそこ口説かれたこともあって」という一行があるだけで、「なんだよ自慢かよ」となる。

どうしても人は他者と比べることから逃れられない。なんだかTwitter上ではしんどさの度合いを争っているように見える。また、「特権を持っているから叩いてもいい」という風潮がある。貧乏でなくてお金持ちだから叩く、という風潮。

そんなものに対し、二人は違和感を披露しあったあと、「だけど、自分の個人的な悩みはいったん置いておいて、もっとしんどいところに追いやられている人たちがいるから、そこをもっと見ようっていうのも、それはそれで必要なんです。」と岸さんは言う。矛盾しているんですよ、と。ずるいような気もするけど、でもそういうことだよなぁ、と思う。

 

また、私が好きなのは、「ネガティブな気持ちを飼いならす」のおはなし。

ある男子学生に、自分の彼女がコンパに行くことが嫌で、でも相手を束縛したくないから言えない、と相談されたそう。

そこで岸さんが言ったのは、「コンパに行くなって強制する権利はないけれど、コンパに行ってほしくないという気持ちを伝える権利はある」と。

いやほんとうに。これは、誰かと一緒に生きていくためにはものすごく大切なことだと思う。「気持ちを伝えること」と「強制すること」は違うし、「相手を受け入れること」と「我慢すること」も全然違う。ちゃんと切り分けて人間関係を結んでいくのは簡単なことではないけれど、こればかりは少しずつ訓練をして、身につけていくべきと思う。

 

というわけで、岸さんと雨宮さんの相乗効果で、「実際の人間関係に役立つ本」になっているのではないだろうか。

しかも対談なので、押し付けがましくない。もしよかったら、ヒントをどうぞ、という感じ。

 

雨宮まみさんの「女子をこじらせて」も読んでみたいと思う。

 

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感想:街の人生(岸政彦) 

「 断片的なものの社会学 」につづいて、岸政彦さんの「 街の人生 」を読みました。

街の人生

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5章のうち、なんとなく選んだ2つの章を読んだ時点で、どっと疲れはててしまいました。それ以上ページをめくるが体力が残っていない、という表現が正しいように思います。

 

本書は、著者の岸政彦さんが、5名の人たちに、これまでどのように生きてきたかをインタビューした時の記録です。

どんな土地で生まれ、どんな人と出会い、毎日どんなことをして生きてきたのか/生きているのか。受け答えの口調など、出来る限りインタビューそのままのやり取りを記録しよう、という意思を感じる内容になっています。

 

著者である岸政彦さんは、数百人に対し、そのような「生活史の聞き取り」をしているといいます。そして、冒頭に、「これは普通の人生の記録です」と言い切ります。

インタビューの対象は、外国籍のゲイ、摂食障害、シングルマザーの風俗嬢、ニューハーフ、ホームレスの5名。マジョリティかマイノリティかといわれれば、マイノリティに属する人たちです。

でも、「普通の人生の記録」である。それがどういうことなのかは、本書を読む中で、(本当に淡々とインタビューが続くだけなのですが、だからこそ)理解できると思います。

 

突然ですが、岸政彦さんの「断片的なものの社会学 」にて、ヤンヨンヒ監督の「かぞくのくに 」という映画が紹介されています。私がものすごく好きな映画なのですが、この「街の人生」を読んでいるとき、まるで「かぞくのくに」書籍版のようだ、と思いました。

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「かぞくのくに」は、在日コリアン北朝鮮国籍)の家族の話です。あらすじは割愛しますが、日本に住む家族のもとに、北朝鮮に住む長男が帰ってきて、限られた数週間のあいだ、日本で共に生活する日々が描かれています。監督の実体験をもとに作成された作品です。

この背景には、大きな歴史的な流れ、国家関係や政治体制の問題が山ほど眠っています。

でも、映画で切り取られているのは、彼らの毎日の暮らしです。一緒にごはんを食べたり、他愛もない話で笑ったり、嫌なことがあっても黙っていたり、泣きたくても泣かなかったり。そんな連続の中で、長男は日本にやってきて、常に北朝鮮の見張りに同行を注視され、感情をほとんどあらわにせず、最後には帰国していきます。毎日の暮らしは、その前も、その最中も、そのあとも続いていきます。彼らはものすごい痛みや悲しみを抱えていますが、でもそれは悲劇的な別離とか、感動的な再会とか、そんな言葉で意味づけをする前に、彼らにとっては一つの、普通の人生なのです。

 

映画の話なのか本の話なのかわからなくなってしまいましたが、この「街の人生」はそんなふうに、それぞれの普通の人生を記録した、貴重なインタビューが寄せられた一冊です。

わたしが5分の2を読んだだけでどっと疲れたのは、彼らの人生が激動だから、悲劇的だからというわけではなく、普通の人生として記録されていたからだ、と思っています。

 

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書評:断片的なものの社会学(岸政彦)

岸政彦さんの「断片的なものの社会学 」(朝日出版社)を読みました。

とても面白く、大好きな本になってしまったので、書評とまではいえないかもしれないけれど、感想を書いておきたいと思います。

断片的なものの社会学(Amazon)

 

普通に生活をしている中で、ふと、これは人を傷つけているのではないか、と思うときがあります。

それは、誰かの陰口を言ったとか、誰かを無視したとか、誰かのものを横取りしたとか、そういうときのことではなく。

例えば、自分の家族の写真をSNSにアップしたとか、お年寄りを席に譲ったとか、道に落ちているゴミを拾ったとか、そういうとき。

その度に、これは人を傷つけているのではないか、と思います。思うけれど、やめられません。

 

そんな日常で出会う断片的なものを、ひとつずつ、ちゃんと言語化して、ちゃんと考えていて、綴っている人がいた。

この「断片的なものの社会学」を読み始めたとき、そんなことを思いました。なんだか嬉しいような、恥ずかしいような。

きっと、同じように感じた人は他にもたくさんいるんじゃないかな、と思います。

紀伊國屋じんぶん大賞」という大きな賞も受賞したそうなので、きっとそうに違いない、と信じています。

 

本書には、社会学者の岸政彦さんが感じたこと、冒頭に挙げたような断片的なできごとや気持ちが、たくさん詰め込まれています。

タイトルには「社会学」と謳われていますが、何かを体系的に整理し、分析し、一つの答えを出しているような本ではありません。体系的に整理できない思いや、文脈にならない断片的なできごとを、ひとつずつ淡々と記録して、心にそっとしまう、そんな作業の記録のような本です。ある社会学者のエッセイ、とでも呼ぶと、ふさわしいのではないでしょうか。

 

せっかくなので、好きな章のうち、ここではふたつほど紹介したいと思います。

まず、本書の序章である7ページほどの「イントロダクション 分析されざるものたち」。

ここでは、意味付けできない断片的なものってあるよね、というようなことが語られています。作者は幼稚園のとき、路上に転がっている無数の小石を一つ拾い上げ、うっとりと眺めていたそう。広い地球で、この瞬間にこの場所でこの私によって拾われたこの石。そのかけがえのなさと「無意味さ」に、震えるほど感動していたと。

同じように、知らない人たちが書いた膨大なブログやTwitterを眺めるのも好きだといいます。「浜辺で朽ち果てた流木のようなブログには、ある種の美しさがある。工場やホテルなどの「廃墟」を好む人びとはたくさんいるが、いかにもドラマチックで、それはあまり好きではない。それよりもたとえば、どこかの学生によって書かれた「昼飯なう」のようなつぶやきにこそ、ほんとうの美しさがある」。

そもそも無意味なものに、意味もなく出会うことがたくさんある。私たちはその出会いや存在に、無理やり意味を見出す。でも、そんな無理やりの意味すら出来ず、ただそこにあるだけの、意味のない断片的なもの。それが、本書の主役なのです。

 

つづいて、「手のひらのスイッチ」。子供を持たない作者が、子供の写真がプリントされている年賀状を出してくるような友だちと、なんとなく疎遠になってしまう話が綴られています。

作者は「子供ができない俺に向かって、そんな年賀状を出してくるなんて無神経だ!」と言っているわけではありません。仲の良い友達が妊娠・出産すると心から祝福します。楽しみにもなります。でも、なんとなく疎遠になってしまう。そのままのことを書いています。

幸せというものは、そこから排除される人々を生み出すという意味で、同時に暴力でもある。では、その幸せを、みんな捨ててしまうべきなのか。

いや、一人ずつ違う幸せがあるからそれを認め合えばいいじゃないか、という人もいる。でも、普通にウェディングドレスを着て、普通にきれいだね可愛いねとみんなから言われたい、幸せというのは「一人ずつ違う」とかではなく、そういうありきたりないものではないのか。

そして、そんな幸せをずっと想像して願ったり、それゆえに誰かを傷つけたりする、そんなことを誰しもが続けている。それは良いことでもないけれど悪いことでもない。

そういうことを書いたあとに、作者はこの章を、「だから私は、ほんとうにどうしていいかわからない。」と結んでいます。

  

最後に。

この本は、THE社会学の学問書というよりは社会学者のエッセイ、といいましたが、どうであれ「社会」に関しする本であることは間違いない、といえます。

人間とか犬とか小石とかの集まりを「社会」として私たちが意味付けすることによって生まれるもの、一人ずつがその社会に触れるときに起こるもの、そういう断片的なものについて書かれている貴重な本だと思います。

社会の中で、いろんな断片的なものの存在を感じたとき、この本を本棚から取り出して、そうだよね、そう思うよね、と小さな拠りどころにしたいなと思います。

 

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